フランスの首都パリから車で2~3時間ほど南西に降りたところにある「ロワール地方」。ボルドーやブルゴーニュ地方同様に世界的に有名なフランスのワイン生産地です。ロワール地方は、ユネスコ世界遺産に「ロワール渓谷」として登録されており、11~15世紀にできたシャンボール城、シュノンソー城などの古城(シャトー)やその庭園、歴史ある街並みから「フランスの庭」とも呼ばれています。
フランス北部・ロワールってどんなところ?
ロワール地方は、フランス最大の川「ロワール川」流域に広がるワイン産地。ロワール川は、全長約1,000キロあるフランス最長の川です。そのロワール川流域に広がるロワール地方のワイン生産地域は、川上のクレルモン・フェランから大西洋側のナントまで続き、フランス第3位の生産量を誇ります。ロワール地方の生産地域は、大きく4つに分かれ、河口から「ペイ・ナンテ地区」、「アンジュ&ソミュール地区」、「トゥーレーヌ地区」「サントル・ニヴェルネ地区」と続き、様々な気候条件やブドウ品種から多様なワインが生産されています。
ロワールの歴史

ロワール地方のワイン生産の歴史も、他のフランスの主要産地同様に、1世紀ごろにローマ人がブドウ木とワイン文化を持ち込んだことに始まります。その後、船での物資の輸送に便利であったロワール川沿いにブドウ畑は広がり続けました。6世紀の歴史家グレゴワール・ドゥ・トゥールは、当時のトゥーレーヌやサンセールなど、今も生産の続くワインの存在について言及しています。さらにロワール地方のワイン文化は、中世のアウグスティヌス会やベネディクト会の修道士の元で発展していきます。
1154年ロワール地方のワインは、アンジュ伯ヘンリ2世がイングランドの王位についた際に、アンジュ地区のワインを宮廷で供すことになり、ロワールワインが、イングランドとフランスの両方の国でその後も長い間評価されることに繋がります。1936年には、フランスのワイン産地の中でも早い段階でロワール地方のワイン産地もAOC認定され、その品質と文化が保護されることとなります。さらに2000年には、ロワール渓谷の街並みやブドウ畑などの景観と文化がユネスコの世界遺産に登録され、ロワール産ワインもますます世界から注目されることになりました。
ロワールのワインの特徴
ロワールワインの特徴は、フランス最長のロワール川沿い、約1,000kmの広大な土地にブドウ畑が広がるゆえの多様性にあります。川上の標高の高い地域や、河口の大西洋沿岸まで、気候や土壌も多岐にわたるため、様々なブドウ品種が栽培されており、一般的な赤白ロゼワインだけでなく、スパークリングワインから甘口ワインまでも生産されています。
品種により香りや味わいが異なるのはもちろんですが、ロワール地方はフランス国内のワイン生産地の中でも北部に位置し、比較的冷涼な気候であるため、総じてエレガントで繊細な印象を受けるワインが生産されています。
主なワイン品種
ロワール地方で栽培される主要品種は、白ブドウ品種に、シュナン・ブランやソーヴィニヨン・ブラン、ミュスカデ、黒ブドウ品種に、カベルネ・フランやピノ・ノワール、ガメイがあります。以下に各品種の特徴を簡単に説明いたします。
シュナン・ブラン

産地としては、ロワール地方の中心に位置するアンジュ&ソミュール地区やトゥーレーヌ地区で主に栽培されているブドウ品種。ロワールの銘醸地のものは、酸が高く硬質なミネラルも持ち合わせ、長期熟成へのポテンシャルも持ち合わせています。辛口ワインが生産されることが一般的ですが、スパークリングワインや甘口ワインも生産されています。
ソーヴィニヨン・ブラン

世界中の様々な国や地域で栽培されており、爽やかな柑橘系やハーブのニュアンスを持った人気のブドウ品種です。ロワール地方でも広い地域で栽培されており、特にサンセールやプイィ・フュメ産のものは、ソーヴィニヨン・ブランで造り上げるワインの中でも非常に高い人気を誇ります。
ミュスカデ

別名ムロン・ド・ブルゴーニュ。ロワール川河口のペイ・ナンテ地区で主に栽培されています。ロワール産のミュスカデは、フレッシュで爽やか、軽くみずみずしい味わいの白ワインで楽しまれます。ミュスカデは「シュール・リー製法」で熟成されることが多く、醸造時に発生する旨味や深みをワインの味わいに活かしています。
カベルネ・フラン

ロワール地方で最も栽培されている赤ワイン用ブドウ品種です。ボルドー地方でも多く栽培されており、ボルドー地方では他の品種とブレンドして赤ワインをつくるのが一般的ですが、ロワール地方では、単一品種にてロゼやスパークリングワインなども生産されています。ロワール地方産のカベルネ・フランのワインは、ボルドー産のものよりもさっぱりとしていてエレガントな味わいの印象を受けます。
ピノ・ノワール

ブルゴーニュ地方が銘醸地とされるピノ・ノワールですが、ロワール地方の標高の高い内陸部などで栽培が盛んです。ブルゴーニュ地方産のものよりも、より軽やかでチャーミングな果実味の印象を受けるものがロワール地方産のピノ・ノワールの基本的なスタイルです。ブルゴーニュ地方産の価格が高騰しているため、まだリーズナブルなロワール地方産ピノ・ノワールは注目を集めています。
ガメイ

我々日本人には、ボジョレーヌーヴォーに使用されるブドウ品種として馴染みがあるガメイですが、ロワール地方でも栽培されています。ボジョレー地方同様にマセラシオン・カルボニックを行って醸造するケースが多く、イチゴやラズベリーの甘やかな香りやキャンディ香のあるライト〜ミディアムボディのものが生産されています。
ロワールの主な産地 ※河口から順に
ロワール地方には、主に4つのワインの生産地域があり、各地域で特色のあるワインが生産されています。大西洋に流れるメキシコ湾流の影響を受ける標高の低い沿岸部から、内陸性気候の川上まで、気候も多様にわたり、さらに石灰質土壌や火山性土壌、砂や粘土などの土壌の成分が各地で異なるため、様々なブドウ品種と多様なスタイルのワインが生産されているのが、ロワール地方の最大の特徴です。ロワール地方を代表する4つの地域の特徴に関してこちらにてご紹介いたします。
ペイ・ナンテ地区
ペイ・ナンテ地区は、ロワール川の河口に最も近いワイン生産地。フランスの中でも大都市とも呼べるナントを中心にブドウ畑が広がります。こちらは大西洋からくる湿った風の影響を受ける海洋性気候の地域で、夏は温暖、冬は他の内陸部のロワールの地区と比較すると穏やかな気候を持ちます。ペイ・ナンテ地区では、生産されるワインのほとんどが白ワインです。中でもムロン・ド・ブルゴーニュと呼ばれるミュスカデを使用したワイン、ミュスカデ・ド・セーヴル・エ・メーヌというAOCがペイ・ナンテ地区を代表するもので、爽やかで軽い味わいがその特徴です。
アンジュ・ソミュール地区
アンジュとソミュールの都市を中心に広がる地区で、ロワール地方全体の1/3のワインを生産する、この地方でも最も大きな生産地区です。アンジュは、ロゼワインで有名な産地ともいえ、カベルネ・フランを使用して生産される半甘口のロゼ・ダンジューやカベルネ・ダンジューは特に有名です。白ワインの生産では、シュナン・ブランを使用したものが有名で、特にサヴニエール村産のものが高く評価されます。中でもロッシュ・オー・モワンヌやのクーレ・ド・セラン畑は、シュナン・ブランのグラン・クリュ(特級畑)ともいわれ、国際的にも最高峰の評価を受けます。アンジュ・ソミュール地区で生産されるワインも他のロワール地方の生産地同様に多様で、他にも貴腐菌を利用した甘口ワインの・カール・ド・ショームは、ソーテルヌに並ぶフランス最高峰の甘口ワインと評されています。
トゥーレーヌ地区
トゥーレーヌはトゥールの街を中心とする生産地区。4つの地区の中では比較的内陸に位置することもあり、海洋性気候よりも大陸性気候となり、より寒暖差のある地域です。また、ワイン畑がトゥーレーヌ地区内で飛び地のように広がることもあり、気候や土壌、栽培品種に多様性があります。ソーヴィニヨン・ブランやシャルドネも栽培されていますが、ヴーヴレ村産のシュナン・ブランを使用したものが白ワインでは特に評価が高く、辛口ワインだけでなく、スパークリングワインや甘口ワインも生産されています。赤ワインでは、カベルネ・フランを使用したAOCブルグイユやシノン産のものが地域を代表するもので、チャーミングな果実味を持ちながらもエレガントで引き締まった味わいを表現し、長期熟成のポテンシャルも持ち合わせています。
サントル・ニヴェルネ地区
サントル・ニヴェルネ地区は、ロワール地方で最も川上にあり、寒暖差が生じる内陸性気候の土地です。場所により標高差もあります。こちらは、古くよりソーヴィニヨン・ブランの品質で高く評価される地域です。代表的なAOCはサンセールやプイィ・フュメで、フランスだけでなく世界最高峰のソーヴィニヨン・ブランを使用した白ワインが生産される土地として高く評価されています。サントル・ニヴェルネ地区は、中央フランス地区ともいわれ、ブルゴーニュ地方も近く、赤ワイン用にピノ・ノワールも栽培されています。近年では、このピノ・ノワールを使用した赤ワインも、比較的リーズナブルで、ブルゴーニュのものに負けるとも劣らない品質があるため、世界のピノ・ノワールラヴァ―より注目を集めています。
ロワールによく合う食事は?

ロワール地方は、やはりロワール川で採れる川魚が有名な地域です。代表的なものはサンドル(淡水スズキ)やブロシェ(カワカマス)。様々な調理方法がありますが、ロワール地方生まれのソースとして、ブール・ブランソースを使用することが伝統的です。ブール・ブランソースは、白ワインとビネガー、バターを使用したソース。爽やかな酸味があり、同じく爽やかな酸味があり軽快な味わいを持つロワール地方産のワインと相性抜群です。
フランス料理の定番となっていて、フランスのビストロではどこでも注文できるリエットも、実はロワール地方のトゥールが発祥とされます。リエットは、ラードや白ワインで煮込んだ豚肉をペースト状にした料理。パテとしてパンに塗って食べます。リエットは油分の多い料理ですので、綺麗な酸とミネラルを持ち合わせるロワール産シュナンブラン種と相性抜群です。また、赤ワインの中でも酸とエレガンスのあるロワール産のカベルネフラン種の赤ワインとも相性がいいでしょう。

また、ロワール地方は、山羊乳を使用したシェーブルチーズの名産地でもあります。特に有名なものは、ヴァランセやサントモール・ド・トゥーレーヌなど。爽やかな酸味を持つロワール地方のシェーブルチーズは、ソーヴィニヨン・ブラン種のサンセールやプイィ・フュメ、シュナンブラン種の白ワインと合わせるのが定番です。
まとめ
以上がロワール地方のワインのご紹介でした!フランス最大のロワール川に広がるワイン生産地は多様性に優れ、説明しても説明しきれないほどです。ロワールワインは、価格も比較的リーズナブルで、飲みやすい味わいのものも多く、親しみやすいのも大きな特徴の一つではありますが、一方でその多様性ゆえに、非常に奥が深く、一口にロワールワインと言い切ることも難しいです。近年ではロワール地方一帯でナチュラルワインの生産者も増えているため、ますます注目を集めるワイン生産地となっております。
記事:WineJourney編集部